私はかつて、ネパール第二の都市ポカラヘ、論文の原稿書きに出かけたことがある。
ヒマラヤに囲まれた静かな雰囲気のなかでは、きっと仕事もはかどるだろうと考えたからだ。
ドラム缶のイカダで渡るペワ湖のほとりのホテルで、庭のテーブルに陣どり、原稿用紙を前にしたが、眼前に扉風のように立ち並ぶアンナプルナ山群のパノラマを見上げると、日本や海外での色々な山の思い出、山仲間たちのことが次々と頭のなかをめぐり始め、うきうきした気分になって、そのうちに、登山やトレッキングで知り合ったシェルパたちが次々と訪ねてきて、ますます嬉しくなった。
原稿書きは明日からだ、明日からだといいながら、アッという間に1週間が過ぎてしまった。
ヒマラヤの眺望を前にし、なつかしい山仲間と語り合っては、どだい原稿書きなんて無理な話だ。
結局、首都カトマンズに引きあげ、窓を閉めきったホテルの一室に閉じこもって、ポカラでのロスをなんとかとり戻したわけだ。
1998年のネパール観光年に際して、観光省が発表したメッセージは次の通りだった。
「ハイキング気分でトレッキングを楽しむ。
ゾウにまたがり、ジャングルでサファリする。
多彩な民族とその芸術に触れる。
世界遺産に指定された美の数々を観る。
各国料理に舌鼓をうつ。
治安は良く、そして人々の温かさが心に響く。
ネパールには、これらがすべてそろっている。
またついビールで乾杯。
原稿を書くのがばからしくなって、「よし、明日からだ」となってしまった。
さて、ネパールがどこにあるのか、ということは、案外日本では知らない人が多い。
北は中国領チベット自治区、南はインドと国境を接し、北海道の約1.7倍の大きさで、東西に細長い国土。
人口は約300万人。
首都のカトマンズは標高が1300メートルで、人口は約7世界には8000メートル以上の高峰が14座あるが、世界最高峰のエベレスト(8848メートル)を始めとする9座が、ネパールと中国の国境線上、またはネパール国内に存在する。
地勢上最大の特徴は北部の高山帯から南部の亜熱帯に至るまで、さまざまな景観の変化が見られ、動植物の変化も多種多様であることだ。
平地でこれだけの変化を見ようとするには、南北方向に数千キロも移動しなければならないが、ネパールではわずか150キロくらいの距離の移動で見られる。
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